624. 夢の話




夢の話

その友人のアトリエに招待されたのは2度目だったが、あまり気はすすんでいなかった。

見たこともないステキな作品をつくる陶芸作家だが、
人の良さそうな彼のアトリエは
壊れかけた廃屋のようで、
腐った木材と伸び放題の雑草に包まれ、
天井はすでにぬけおち、
2階の天井からは青空がのぞいていた。

すべてが風化寸前で、
それだけでアートだった。

そんなアトリエは共同使用で、
建物の各部屋に数人のアーティストが
こもって暮らしていた。

昔からよく知っている無口で太ったアーティストが偶然帰ってきて、天井の抜けた居間で遭遇した。

相変わらず無愛想で一言も喋らなかったが、目を合わせるのが嫌いな彼は野太く小さな声で、久しぶり…といって不敵な笑みを浮かべているのが、わかった。

一階の部屋の端に大きな樽があり、
海賊の刀刺しゲームのようだったが、
よくわからない巨大なものだった。
無口な友人は何も言わず、
その樽に刺さった木片を引き抜き
自分の部屋へ戻っていった。

ボクをアトリエに招待した陶芸家が
奥さんに会わせたいといい、
2階へこいという。
2階に来いと言われても
何処からいけばよいのやら、
部屋の隅に縄梯子がかかっていて、
薄い腐った天井板に伸びていた。

ここから来いというのか?

青空が覗く大きな居間の天井を
腹ばいになって進んだ、
怖くて進めないが戻るわけにもいかず、
時々腐った天井はメキメキ音をたて、
今にも崩れ落ちそうだ。
なぜこんな目に会うのだろう?
せっかく招待されても
こんなところから落下して
大怪我しては洒落にならない。
早く来いという、彼の声は、
2階の右奥の方からしていて、
どうやらそこに奥さんの部屋があるらしい。
命懸けで、そこに、到着しても、
何があるというのか⁈
そんなに美味しいお茶でもふるまってもらえるのか、リスク大きすぎだよ。

腹ばいで部屋の中腹まできた時、

ぼくは、落下した。

アタマの中は真っ白

まるでスローモーションだった。

その瞬間
気づいた陶芸家の友人が
木片を空中に投げあげたのがわかった。

その木片はあの樽の刀刺しの穴にピッタリと刺さった。…

その樽がロボットのように立ち上がった。
ヤバイ!!咄嗟に肌で身の危険を察知した。
つたやかずらで隠されていた
自分のカラダを全方向ミサイルのように回転爆発させながら部屋中を走り回って、
ただでも崩れ落ちそうな、
その共同アトリエを破壊している。
ぼくのこめかみ寸前にも
木片が飛んできて危うく命を落とすところだった。

アトリエが轟音をたてて野原に戻るには大して時間もかからなかった。

丘の上から湖の見えるそのアトリエは消失した。

すべてのカラクリは何のために…
知るよしもないが…

今日は、何ごともない良く晴れたいい天気だった。

 

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